性腺腫瘍(胚細胞腫瘍)
小児の性腺(卵巣、精巣)に発生する腫瘍は非常に稀であり、15歳以下の小児がんの1%未満と言われています。卵巣腫瘍がそのうちの8割を占めており、精巣腫瘍は2割と少なくなっています。ひとくちに胚細胞腫瘍と言っても、成熟奇形腫、未熟奇形腫、卵黄嚢がん、精上皮腫、胎児性がん、絨毛上皮がんなどいくつかの種類があり、それぞれ診断方法や治療方針が異なります。
症状は?
卵巣にできる胚細胞腫瘍
10代の思春期以降に多く、腹痛や巨大な腹部腫瘤として気づかれます。10%程度の症例は茎捻転(卵巣腫瘍がねじれてしまい、激しい腹痛で発症する)や腫瘤の出血破裂による急性腹症で発症し、緊急手術となることもあります。卵巣腫瘍から卵巣ホルモンが分泌されることもあり、その場合は、無月経、月経困難症、思春期早発、多毛症、男性仮性半陰陽などの症状が見られることがあります。
精巣にできる胚細胞腫瘍
無痛性の精巣腫瘤として気づかれることが多く、陰嚢水腫やそけいヘルニアと間違われることもあります。精巣腫瘤の中でも、卵黄嚢癌や奇形腫は幼児期の2-3歳に多く見られますが、大部分は10代の思春期以降に発症します。腫瘍がホルモンを産生することがあり、男性化・女性化徴候や思春期早発の症状がみられる場合があります。
診断のための検査は?
血液検査、尿検査
1卵黄嚢の成分を含む卵黄嚢がんや悪性奇形腫では、血清中のAFP(αフェトプロテイン)が高値となり、診断に有用です。AFPは胎生期に卵黄嚢で産生される糖蛋白であり、出生時にその産生は停止します。そのため、AFPは出生時には50,000ng/ml程度と高値であり、幼児期以降になって成人と同様の10ng/ml以下となります。従って、乳児期の胚細胞腫瘍を疑う場合には、年齢に応じたAFP値との比較が必要です。
HCG(ヒト胎盤性ゴナドトロピン)は、胎盤の絨毛細胞から分泌される性腺刺激ホルモンで、絨毛上皮成分を含む絨毛上皮がんで高値となります。まれに胎児性がんで高値を示すこともあります。通常、血清中や尿中のHCG及びβHCGが測定されます。
CEA、CA19-9は、胚細胞腫瘍のうち卵黄嚢成分を含んだ卵巣未熟奇形腫で上昇することがあります。CA125は成人の卵巣がんの腫瘍マーカーとして有用ですが、小児では胚細胞腫瘍の卵黄嚢がんや未熟奇形腫で上昇することがあり、診断に有用です。
画像検査
腫瘍の大きさや広がりを検索するために、超音波、CT、MRIなどが行われます。奇形腫の場合は腫瘍内に石灰化や嚢胞性の病変を伴うことがあり、診断に有用です。悪性腫瘍が疑われる場合には、後腹膜リンパ節・肺・骨などの遠隔転移を検索するため、胸部レントゲン、CT、骨シンチなどの精査が必要となります。
性腺腫瘍の治療戦略
外科的治療
性腺腫瘍は外科的摘出の適応となります。1回の手術ですべての腫瘍が摘出できない場合は、化学療法を行って腫瘍を縮小させた後に切除が行われます。
卵巣腫瘍の場合、片側性であれば摘出が考慮されます。両側性の場合は、まず生検を行い、病理診断が確定した後に、卵巣摘出か卵巣温存かの術式を検討します。小児では、限局性の胚細胞腫瘍(転移が見られない腫瘍)の場合は、外科的摘出のみで化学療法や放射線療法を行わず、摘出後は慎重に経過を観察する方法が主にとられています。
再発または腫瘍マーカーの高値が持続する場合は、化学療法が選択されます。AFPは出生時には50,000ng/mlと高値ですが、生後6か月~8か月には20ng/ml以下となり、幼児期以降では成人の正常値と同様の10ng/ml以下となります。術前にAFPが高値であったとしても、腫瘍がすべて摘出されていれば、術後は5~7日ごとにAFPが半減します。治療効果の判定には、半減期に従ってAFPが低下するかを判断することが重要です。
化学療法
腫瘍が取りきれなかったり、転移のある胚細胞腫瘍については、プラチナ製剤を含む化学療法の有効性が示されています。 腫瘍の原発巣を摘出した後に、BEP療法(ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン)による化学療法を3-4コース行うことが一般的です。