研究室のご紹介
臨床研究
治療・管理ガイドライン作成を含め、臨床研究の活動拠点として全国ネットで活動しています(川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン 2020年改訂版、協力員:池田)。
主な研究
川崎病冠動脈瘤発症予防のための急性期治療難治例予測診断法開発に直結するエビデンス創出研究(AMED分担研究)
AMED研究班(班長・福岡大学西新病院小児科 吉兼由佳子先生)では川崎病冠動脈瘤発症を予防するため、バイオマーカーを利用した川崎病難治例予測診断法開発により世界共通の川崎病急性期重症度診断及び個別最適化治療法ガイドライン作成を目指しています。各施設で収集した治療開始前及び治療開始二日後の検体を対象とし、それぞれ市販のELISAキットおよび外注検査にて川崎病患者の血中PTX3, TNCを測定します。難治例が2nd line までで治療を終えた群と有意差を以って区別可能かどうか検証する予定です。
Flow Mediated Dilation(FMD)を用いた川崎病遠隔期血管障害に対するEPA投与の有効性に関する研究
川崎病遠隔期血管障害が動脈硬化のリスクファクターである可能性が示唆されており、当科では早発動脈硬化の検出を目的として、思春期以降の患者様に対してFMD検査(flow-mediated dilatation, 血管内皮機能検査)を行っています。
また近年、エイコサペンタエン酸(EPA)とアラキドン酸(AA)の比(EPA/AA)が循環器領域にて注目されています。両者の作用は拮抗しており、EPAは抗炎症や抗血小板凝集作用を介して動脈硬化を抑制し、アラキドン酸(AA)は炎症促進や向血小板凝集作用を介して動脈硬化を促進します。また、EPAを経口投与することで血中 EPA/AA 比が速やかに上昇し、冠動脈イベント発症が抑制されたとの報告もあり、その効果が注目されています。
そこで本研究では、川崎病血管障害残存患者においてEPA製剤を投与し、投与開始前後でのEPA/AA比の測定ならびにFMD値を測定しています。その結果、血中EPA/AA比の上昇に伴い血管内皮機能の有意な改善が認めらており、川崎病遠隔期患者においてもEPA製剤が早発動脈硬化の発症や進展抑制に有効であることが示されました。今後は、多施設共同研究を立ち上げて、エビデンスレベルの向上を図る予定にしています。
基礎研究
1. 長期予後に関する研究
酸化ストレスに関する研究
最近では、血管内エコーにおける形態的評価の他、冠動脈拡張能や冠動脈血流予備能・%FMD等の機能的検討から、川崎病遠隔期においても血管内皮障害の残存が示唆されています。そして川崎病血管炎に伴うこの血管内皮障害が、早発動脈硬化の危険因子になり得るのではないかと危惧されています。
我々は、家兎アレルギー性血管炎モデルを用いた動脈硬化発症の研究からも、川崎病遠隔期における早発動脈硬化発症の危険性を報告してきました(日児会誌 100,p1543,1996)。また、血中トロンボモジュリン値より、血管内皮細胞の障害が回復期~遠隔期にかけて存在していることも報告しました(日児会誌97(1),p93,1993)。さらに、血管内皮細胞機能障害が回復期以降も残存していることを、冠動脈血流予備能の点から報告してきました(JACC 15,p833,1998).
一方、血管炎の進展における酸化ストレスの関与が近年注目されており、活性酸素種による血管内皮細胞の一酸化窒素(NO)産生低下、血管平滑筋細胞活性・MMP産生亢進、細胞接着因子や炎症遺伝子の発現誘導などが知られています。
特にNO産生低下は、血管収縮・血小板凝集ならびに血栓形成の亢進・炎症と増殖を引き起こし、酸化ストレス状態のもとに血管炎と血管内皮障害は連動して進行すると推測されます。
また、酸化ストレスマーカーである8-isoprostaneが、様々な生物活性(LOX-1の発現誘導、血管平滑筋の活性・増殖、血管収縮など)を有することからも、酸化ストレスが川崎病遠隔期における血管内皮細胞障害の一原因として重要であると考えています。殊にLOX-1は血管内皮細胞やマクロファージに発現しており、血管内皮細胞とマクロファージとの接着による動脈硬化との関連性に密着に関係していることが知られています。
また、活性平滑筋細胞は血管内皮細胞のNO発現など血管内皮細胞の調整に密接に関係しています。
以上のことからも、我々は、川崎病における血管内皮障害の原因の一部として、酸化ストレスを介する血管内皮細胞と平滑筋細胞や細胞外基質とのinteractionが重要ではないかと考えています。
このような背景から、臨床的検討とともに、川崎病類似のアレルギー性血管炎を発症する離乳期家兎モデル (厚生省心身障害研究乳幼児に関する研究,p67,1984)を用いた実験的検討を行っています。
早発動脈硬化に関する研究
2. 血管障害に関する研究
血管障害のリモデリングに関する研究
川崎病は小児期に好発する代表的な全身性血管炎であり、特に冠動脈炎に伴う冠動脈障害は虚血性心病変につながることから臨床的に注目されています。毎年10,000名以上の発症者が見られ、小児期に見られる最多の後天性心疾患として既往児の長期予後が危惧されています。
我々は、治療法改善を目的に多施設共同研究に基づいたガンマグロブリン治療の適応基準の設定をするともに、血管障害の病態を解明する目的で、冠循環動態の評価法の開発、血管内エコー検査および内皮由来血管拡張機能の評価を行い、冠動脈病変の有無にかかわらず冠動脈内皮細胞障害が遠隔期においても残存し遠隔期において粥状動脈硬化発現の大きな危険因子になる可能性を指摘してきました。
これらの臨床的病態をさらに詳細に検討するため、川崎病類似の血管炎像を有する幼若期家兎血管炎モデルを開発し、急性期から遠隔期に及ぶ血管内皮機能障害の抑制や改善を考慮に入れた治療戦略をたてるための病態解明を検討してきました(幼若家兎血管炎モデル)。
幼若家兎血管炎モデルは、離乳早期の日本白色系家兎(週齡5週,体重700-800g)に対して馬血清(対照には生食)を2週間隔で2回耳静脈内に注射することで作成します(日児会誌 100(9), 1453-1458, 1996)。
本モデルにおいては、2回目の馬血清注射後1日目から中膜の浮腫状変化と肥厚を伴う、川崎病に酷似した全層性冠動脈炎が発現します。(第38,39回日本小児循環器学会総会発表、京都府立医大雑誌113:443,2000)(組織写真:上は対照,下は発症7日後)(グラフは血管内膜径の推移)
また、この実験モデルでは、遠隔期においても中膜平滑筋細胞の慢性的遊走が継続しており、高コレステロール食によって、粥種状動脈硬化が明らかに発現します(日児会誌 100(9), 1453-1458, 1996)。
この点からも、本モデルは、川崎病後の早発粥種状動脈硬化への病態を解明するとともに、治療戦略を検討するモデルとしての有用性が確立しています。(日児会誌 100(9), 1453-1458, 1996)
川崎病遠隔期の冠動脈病変の病態を明らかにすることを目的として, 馬血清による川崎病類似血管炎を引き起こした離乳期兎モデルにおいて, 思春期にあたる遠隔期の組織学的検索を行いました。 その結果、急性期における全層性の炎症細胞浸潤の後, 遠隔期までに炎症細胞浸潤が消褪する一方で内膜中膜の肥厚が遷延していました。病変部には血管平滑筋細胞が多量に含まれており, プロテオグリカンが貯留し, また多くの細胞がVCAM-1とNF-κBを発現していました。
このように、更なる血管平滑筋細胞の増殖やプロテオグリカンの増生, 脂質の沈着を引き起こす条件が整っていることから, 一過性炎症の後, 血管平滑筋細胞の増殖やプロテオグリカンの貯留によって内膜中膜肥厚病変が形成され, 血管壁のリモデリングが進行すると考えられました。これらの結果から、遠隔期に血管平滑筋細胞を標的とした治療の可能性が示されました。また、急性炎症の消褪後に瘤などの明らかな病変がなくても, 継続して経過観察する必要性が示唆されました(Fujii M et al, Acta Histochem Cytochem, 2016)。
血管内皮前駆細胞に関する研究
3. iPS細胞疾患モデルを用いたガンマグロブリン不応川崎病の病態解明
iPS細胞技術を用いて乳幼児に発生する頻度が高い原因不明の血管炎症候群である川崎病の病態解明を目指し、標準的な治療法であるガンマグロブリン静注療法(IVIG)への不応性(反応が見られず、効果がないこと)や川崎病の重症度の病態関連候補分子を発見しました。
川崎病におけるIVIG療法の病態解析はこれまでにも報告がありますが、川崎病患者由来白血球を用いた解析しか存在せず、川崎病患者由来血管内皮細胞を用いた解析はありませんでした。本研究では、IVIG不応およびIVIG反応川崎病患者さんから体細胞を採取し、iPS細胞を作製しました。さらに、既報のプロトコールを用いて川崎病患者由来iPS細胞を血管内皮細胞へ誘導し、RNA-sequencing解析を行いました。解析の結果、IVIG不応川崎病患者由来iPS細胞から誘導した血管内皮細胞において、CXCL12遺伝子の発現が有意に上昇しており、Gene Set Enrichment Analysis (GSEA)では、IL-6関連遺伝子群の発現が有意に上昇していました。
本報告は、川崎病患者由来iPS細胞を用いた疾患モデル作製研究の初めての報告であり、IVIG不応や川崎病の重症度に密接に関連しているCXCL12を発見し、IL-6関連遺伝子群もこれらの病態に深く関与していることを見出しました(Ikeda K, et al. Circulation Journal, 2016)。
2017年5月の倫理指針改定に伴いまして、京都府立医科大学小児科学教室では、「既存試料・情報を提供する機関」である京都大学医学部付属病院iPS細胞臨床開発部のホームページを、当科のホームページに外部リンク先として掲載することにより、研究へのご協力に同意をいただいた方へ情報の通知、公開を行っております。詳しくは、こちらからiPS細胞臨床開発部のホームページをご覧ください。
4. 川崎病血管炎におけるMannose binding lectin(MBL)の役割に関する研究
補体系は自然免疫応答の一角を担う重要な生体防御機構ですが、その不適切な活性化は無菌性の炎症反応を惹起し組織傷害をもたらします。ゆえに生体内において補体系の活性化は、10種類以上の様々な抑制因子と活性化因子によって厳密に制御されています。近年, 補体活性化経路の制御異常といくつかの血管病態との関連があきらかにされつつありますが、川崎病においても、補体関連分子の遺伝子多型と冠動脈傷害(coronary artery lesion: CAL)のリスクとの関連が報告されています。
私たちは、川崎病マウスモデル(カンジダ由来の多糖類をマウスに投与して作成)を用いた実験病理学的研究から、補体経路のひとつであるレクチン経路の活性化にかかわるMannose binding lectin (MBL)が、血管炎部位に沈着して補体経路を活性化していることをみいだし(Nakamura A, Clin Immunol, 2014)、さらに蛋白質生化学的なアプローチにより、同分子の内在性標的蛋白質を同定しました。MBLはMAL-associated serine proteinase (MASPs)を介して、補体経路のみならず、protease activated receptor 4(PAR4)やprothrombinなど血管病態に関係の深い分子も活性化します。ゆえに血管炎病態におけるMBL沈着の影響は補体系にとどまらず多岐にわたるものと考えられます。
MBLはそれ自身で標的分子に結合してレクチン経路を活性化するほか、自己反応性を有する自然抗体との相互作用を介しても同経路を活性化します。最近私達は、血管炎部位に沈着するIgMを含む免疫複合体をin situ 免疫アフィニティー精製し、proteomicsの手法を用いて、組織に沈着するIgM型抗体の可変領域のアミノ酸配列を分析し、イディオタイプを明らかにするとともに、新たに内在性自己抗原を同定しました(中村)。
MBLや自然抗体による炎症応答は、組織傷害により免疫系に暴露された分子をこれらが認識することではじまると考えられることから、私達は、MBLや自然抗体は血管炎の発症に至る過程でなく、むしろ血管炎の増悪や後炎症性の血管リモデリングの過程に関わると考えています。
これらの知見を基礎として、現在、マウスモデルを用いて補体経路阻害剤による治療実験や各種補体制御因子の定量をすすめるとともに、川崎病における血中の補体系関連分子の血中濃度の変化や自己抗体の解析を計画しています。
本研究は東京薬科大学薬学部および東京都医学総合研究所との共同で行われました。
5. 川崎病血管炎のIP-10産生経路におけるProline-rich tyrosine kinase 2 (Pyk2)の関与について
川崎病血管炎の発症過程においてvasa vasorum増生の重要性が報告されています。私たちはこれまでに、Proline-rich tyrosine kinase 2 (Pyk2) が川崎病モデルマウスにおける血管炎の発症に必須であり(図1)、サイトカインアレイ解析によりPyk2 knock-out (KO) マウスと正常 (WT) マウス間では、血管新生の抑制作用を有するMIG/CXCL9およびIP-10/CXCL10の血中濃度変化に差異があることを見出しました(図2)。さらに、各マウスの骨髄由来マクロファージを川崎病モデルマウスの作製に用いるCandida albicans water soluble extract (CAWS) で刺激したところ、Pyk2-KOマウスのマクロファージでは、これらケモカインの発現を抑制する転写因子の活性化が有意に減弱していることがわかりました。したがって、Pyk2-KO マウスではMIG/CXCL9およびIP-10/CXCL10の産生亢進が持続することで血管新生が抑制され、血管炎を発症しない可能性が考えられます(Suzuki C, in submission)。Pyk2 が、川崎病治療における新規ターゲットになるのではないかと期待しています。
図1. 川崎病血管炎発症におけるPyk2の関与 (左: マウス大動脈起始部HE染色, 右: 発症率)
図2. ケモカイン産生におけるPyk2の関与(左: MIG/CXCL9, 右: IP-10/CXCL10)
研究メンバー
学内講師 | 池田和幸 |
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特定専攻医 | 岡本亜希子 |
関係学会
- 日本川崎病学会
- 日本小児循環器学会
学会認定施設
- 日本小児循環器学会・修練施設
業績
Fukazawa R, Kobayashi J, Ayusawa M, Hamada H, Miura M, Mitani Y, Tsuda E,Nakajima H, Matsuura H, Ikeda K, Nishigaki K, Suzuki H, Takahashi K, Suda K, Kamiyama H, Onouchi Y, Kobayashi T, Yokoi H, Sakamoto K, Ochi M, Kitamura S, Hamaoka K, Senzaki H, Kimura T; Japanese Circulation Society Joint Working Group. JCS/JSCS 2020 Guideline on Diagnosis and Management of Cardiovascular Sequelae in Kawasaki Disease. Circ J 2020; 84:1348-1407.
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Miura M, Kobayashi T, Kaneko T, Ayusawa M, Fukazawa R, Fukushima N, Fuse S, Hamaoka K, Hirono K, Kato T, Mitani Y, Sato S, Shimoyama S, Shiono J, Suda K, Suzuki H, Maeda J, Waki K; and The Z-score Project 2nd Stage Study Group, Kato H, Saji T, Yamagishi H, Ozeki A, Tomotsune M, Yoshida M, Akazawa Y, Aso K, Doi S, Fukasawa Y, Furuno K, Hayabuchi Y, Hayashi M, Honda T, Horita N, Ikeda K, Ishii M, Iwashima S, Kamada M, Kaneko M, Katyama H, Kawamura Y, Kitagawa A, Komori A, Kuraishi K, Masuda H, Matsuda S, Matsuzaki S, Mii S, Miyamoto T, Moritou Y, Motoki N, Nagumo K, Nakamura T, Nishihara E, Nomura Y, Ogata S, Ohashi H, Okumura K, Omori D, Sano T, Suganuma E, Takahashi T, Takatsuki S, Takeda A, Terai M, Toyono M, Watanabe K, Watanabe M, Yamamoto M, Yamamura K. Association of Severity of Coronary Artery Aneurysms in Patients With Kawasaki Diseaseand Risk of Later Coronary Events. JAMA Pediatr. 2018; 172: e180030.
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Kobayashi T, Saji T, 他6名, Hamaoka K, 他13名. (collaborators; Saji T, 他70名, Ikeda K, 他28名). Efficacy of immunoglobulin plus prednisolone for prevention of coronary artery abnormalities in severe Kawasaki disease (RAISE study): a randomised, open-label, blinded-endpoints trial. Lancet 2012; 379(9826): 1613-20.
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