骨肉腫

骨肉腫とは?

小児期(特に10歳代)から若年成人で、膝や肩などの痛みと腫れがみられ、次第に症状が悪化してくる場合には、骨軟部腫瘍を疑う必要があります。骨軟部腫瘍のひとつである骨肉腫は、進行が非常に速いので、症状が認められた場合はできるだけ速く、骨軟部腫瘍を専門とする整形外科医や小児腫瘍医を受診する必要があります。

発生原因は明らかではありませんが、p53遺伝子の異常があるLi-Fraumeni症候群や網膜芽腫の患者さんで、骨肉腫が好発することが知られています。

また、予後因子としてRB遺伝子やp53遺伝子のへテロ接合性の消失(LOH)が報告されていることから、これらの遺伝子異常が発がんに関わっている可能性があります。さらに、二次性のものとして、放射線治療後やPaget病の後に発生する場合があります。

骨肉腫はわが国では年間約200人前後が発症すると予想されており、そのうち約50%以上が10歳代であり、とりわけ10歳代後半に好発します。膝関節周囲の大腿骨に発生することが多く、骨折をきっかけに発見されることもあります。

症状

症状は局所の痛みと腫れや熱感で、次第に悪化します。下肢では痛みを伴い、跛行(足を引きずって歩く)が見られるようになります。また、軽いけがでも骨折することがあり、骨折を契機に発見されることがあります。

診断、検査

骨肉腫の診断には、単純レントゲン検査をはじめとする画像診断が必須です。単純レントゲンでは、骨膜反応や骨皮質の破壊像が見られます。MRIやCT検査は、骨および骨外病変の広がりの診断に有用であり、骨シンチやPETはリンパ節や遠隔転移の検索に有用です。さらに、骨肉腫は肺に転移をおこしやすいため、胸部CTによる肺転移の検索が必須です。初診時に約10-20%の症例で肺転移が認められます。

血液検査では、アルカリフォスファターゼ(ALP)が高値となります。ただし、成長期の小児はもともとALPが高値であるため注意が必要です。

確定診断には、腫瘍生検による病理診断が必要です。ひとくちに骨肉腫と言っても、さまざまな組織所見を示すため、骨軟部腫瘍の診断に精通した病理医による診断が不可欠です。

予後リスク

骨肉腫の予後にかかわる因子として、外科的な病期分類としてEnnekingにより提唱された、骨軟部腫瘍に共通した分類が汎用されています。腫瘍がコンパートメントの内外にあるか、組織学的悪性度、所属リンパ節や遠隔転移の有無によって、6つの病期に決定されます。病期Ⅱ以上の腫瘍が骨肉腫の治療対象となります。

予後不良因子としては、

  1. 遠隔転移の有無

  2. 原発巣の発生部位(四肢に較べて体幹が不良)

  3. 腫瘍最大径10cm以上

  4. 治療前の血液LDH値やALP値(正常値の2.5倍以上)

  5. 年齢(40歳以上が不良)

  6. 化学療法の奏効性(抗がん剤治療でどの程度腫瘍が縮小したか)

  7. 組織亜型

  8. 外科手術の完遂度(手術で腫瘍が取りきれたか)

などが報告されていますが、現在では治療の進歩によって、1)遠隔転移の有無、2)化学療法の奏効性、3)外科手術の完遂度、の3つが、特に重要な予後因子となっています。

骨肉腫の治療

生検後は直ちに化学療法を行い、腫瘍の縮小を図ります。画像検査では転移が認められない症例であっても、潜在的には腫瘍細胞が全身に存在するといわれているため、直ちに局所治療としての手術療法を行うのではなく、全身治療としての化学療法(術前化学療法)を行うことが最優先となります。

術前化学療法を行った後に、画像での効果判定を行い、腫瘍摘出と共に患肢温存を目的とした人工骨(関節)置換術が行われることが一般的です。摘出腫瘍の病理学的壊死率によって予後予測がなされ、術後化学療法の強度が決定されます。

治療期間はおおむね1年間です。

化学療法

術前化学療法は、ドキソルビシンやシスプラチンを中心とした化学療法と、大量メトトレキサート療法が一般的に行われています。メトトレキサートは10g-12g/㎡の使用が効果的と言われていますが、薬剤の排泄が遅延することによる腎障害を予防するために、ホリナートカルシウムによる救済療法を併用する必要があります。さらにイホマイドを追加した4剤化学療法が試みられており、ヨーロッパ(イタリア、スカンジナビア)の共同研究では15-16g/m2の大量使用で効果が得られたと報告されています。

術後化学療法では、摘出腫瘍の病理学的壊死率を評価し、治療反応性が良好であった例に対しては、術前と同様の化学療法を継続します。治療反応性が不良であった例に対しては、イホマイドやエトポシドの追加が行われています。ブレオマイシン、シクロホスファミド、アクチノマイシンDなどの投与も試みられています。

手術療法

近年の術前化学療法の進歩に伴い、四肢原発の骨肉腫症例の80%以上は患肢温存が可能となってきます。術前にMRIやCTを行い、広範囲に腫瘍を切除することを原則として、手術計画がたてられます。

切除後の患肢再建は、金属性人工骨置換術、自家処理骨移植法(放射線照射処理、熱処理、液体窒素処理)、血管柄付き自家骨移植法(腓骨など)、回転形成術などが行われています。年齢や成長、運動機能、その後の化学療法を遅延させない術式、患者さんの希望など、様々な要因を加味して、再建法が決定されます。広範切除が困難な一部の症例では、患肢離断術が行われます。

初診時より肺転移の見られた症例は、術前化学療法後に残存した肺転移巣の完全摘出術を行うことで、予後の改善が図れるとされています。

予後

限局性骨肉腫の予後は、化学療法や手術療法の進歩に伴い飛躍的に向上し、各国の5年無病生存率はおおむね60-80%となっています。

初診時より肺転移を認める症例の5年無病生存率は20-30%であり、肺転移結節が3個以下と転移巣の少ない症例では40%前後の生存率となっています。初診時からの肺転移巣が化学療法を行った後にも摘出できない症例や、化学療法中に肺転移巣が出現した症例は、予後不良とされています。

治療合併症

骨肉腫の治療には大量の抗がん剤が使用され、中でもアルキル化剤による不妊、シスプラチンによる腎機能障害や高音域の難聴、アドリアマイシンによる心機能障害が問題となっています。また、イタリアのグループは、骨肉腫の治療後に二次がんが4.4%にみられ、最も頻度の高かった二次がんは乳がんであったと報告しています。

また、手術療法に伴って運動機能の低下は避けられないため、リハビリテーションが重要です。幼少時に金属性人工骨置換術を施行した症例では、成長や感染に伴い再置換術や骨延長術が必要となることがあります。

治療終了後も、再発しないか経過をみるだけでなく、長期的なきめ細やかなフォローアップが必要です。