肝芽腫
肝芽腫とはどんな病気ですか?
大人と同様に、子どもの肝臓にもがんができることがあります。我が国では年間30-40人の子供が肝臓のがんになると考えられています。この子どもの肝臓にできるがんのうち、最も多いものが『肝芽腫』というがんです。
何歳ぐらいの子どもがなる病気ですか?
肝芽腫は、生まれたての赤ちゃんから2歳までの子どもが発症することが多い病気です。ただし、2歳以上の子どもが肝芽腫になる可能性もあります。肝芽腫を発症する危険因子には以下のようなものがあります:1)出生時の体重が非常に低い。2)家族性腺腫性ポリポーシス 3)ベックウィズ-ヴィーデマン症候群
肝芽腫になるとどのような症状がでますか?親はどうやって気づけばよいですか?
肝芽腫が肝臓の中にできると徐々に肝臓が大きくなりますが、よほど大きくならない限り外見からは分かりにくいものです。そのため、機嫌が悪かったりお熱がでたりして病院を受診したときに、医師の診察で偶然気づかれることも多いです。
どのように診断するのですか?
血液検査(腫瘍マーカー検査)
採取した血液を調べて、臓器や組織、腫瘍細胞などから血液中に放出された肝芽腫に特徴的な物質α-フェトプロテイン(AFP)と呼ばれる物質の濃度が上がっているか調べます。ただしAFPの値については、出生直後は正常児でもかなり高い値を示しますし、他の種類のがんやがん以外の病態(肝硬変や肝炎)でも上昇してくることがあります。これらを区別するために、AFPのタイプを調べることもあります。その他、肝芽腫で血小板を作り蛋白を産生するものでは、血小板増多が見られます。
肝機能検査
肝芽腫では正常の肝細胞や胆道を圧迫あるいは傷害するために、肝臓から血中に放出される特定の物質(AST.ALT)の濃度の値が、正常値よりも高く出ることがあります。
腹部X線
腹部の臓器のX線検査です。腫大した肝臓や、石灰化を検出することができます。
超音波検査
超音波によって肝臓の中の腫瘍が描出されます。また、肝臓内の静脈や門脈などの血管と腫瘍の関係、下大静脈や胆管との関連も検討できます。
CTスキャン(コンピューター断層像)
肝芽腫では通常、胸部と腹部に対するCTスキャンが実施されます。胸部は肺への転移を調べる目的です。
現在では、コンピューターで3次元構築することによって、腫瘍の位置や、血管・胆管との関係を明らかにすることができます。
MRI(磁気共鳴画像法)
磁気を用いて、肝臓の腫瘍や血管などの精細な画像検査をおこないます。腫瘍内部の出血や肝芽腫の状態がわかります。頭部のMRIを撮影して、脳への転移を検索することもあります。
生検
がん細胞の様子を顕微鏡で調べるために、細胞や組織を採取することです。腫瘍の切除または観察のために手術が実施される場合には、そのときに組織を採取します。また、太い針をおなかの外から刺して、腫瘍の一部を抜き取ることも行われています。病理医が採取された腫瘍を顕微鏡で観察し、肝がんの形を直接確かめます。
どのようにして治療するのですか?
多くの場合、腫瘍を小さくして摘出しやすくするとともに、手術による腫瘍細胞の飛散を防止するために、手術の前に化学療法が実施されます。このような治療は術前補助療法と呼ばれます。たとえ手術でがんが完全に切除されたとしても、残っている目に見えないレベルのがん細胞を全て死滅させるために、術後に化学療法を実施する場合がほとんどです。肝芽腫の治療法は、がんの大きさや体の他の場所にどこまで広がっているかによって、大きく異なります。治療の前の検査がとても大切になってきます。
病期の進み具合はどのように判定しますか?
手術前の小児肝がんの術前(手術実施前の)病期分類:肝臓全体を4つの区域に分け、区域の内外への腫瘍の拡がり方を基準として分類したもので、PRETEXT分類と呼ばれます。
PRETEXT 1期
肝臓の4区域の1つのみにがんが認められます。
PRETEXT 2期
肝臓の4区域の隣り合う2つにがんが認められます。
PRETEXT 3期
肝臓の4区域の隣り合う3つにがんが認められるか、もしくは肝臓の4区域の隣り合わない2つにがんが認められます。
PRETEXT 4期
4区域の全てにがんが認められます。
治療の副作用はあるのでしょうか?
副作用には、抗がん剤の副作用と手術の副作用があります。抗がん剤の副作用は、気分が悪くなってご飯が食べられなくなったり、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなったりと体に強い負担をかけるものがあります。また、抗がん剤を使い終わった後に、腎臓や心臓の働きが悪くなったり、高い音が聞こえにくくなったりすることがあります。そのため病気が治った後も、定期的に病院に通院して検査を行うことが必要です。
肝芽腫は治る病気ですか?
手術で完全に取り切ることが出来れば、十分に治る可能性がある病気です。遠隔転移のない患者さんでは80%以上の生存率が期待できます。ただし、肝芽腫が体の色んな場所に散らばっていたりして手術で全て取り切ることができない場合は、治ることは難しくなります。予後因子(回復の見込みと治療の強さを決めるもの)には以下のものがあります。1)手術によって腫瘍を完全に摘出できるか。2)新たに診断されたがんか、再発か。3)AFPの値が著しく低いか 4)がん細胞の病理での特徴 5)化学療法の開始後にAFPの血中濃度が低下するかどうか。